第26回 レオナルド・ダ・ヴィンチ

 

 

 

W.アイザックソン著、土方奈美訳「レオナルド・ダ・ヴィンチ(上、下)」(文芸春秋社、2019年3月)の原著は2017年に出版されたようですが、ダ・ヴィンチの没後500年目となる今年、その和訳が出版されました。よく知られているようにダ・ヴィンチはイタリアのルネサンス期を代表する芸術家であり、芸術以外にも科学、工学、解剖学、生理学などの分野に顕著な業績と自筆ノートを残し「万能の天才」といわれています。

本書はダ・ヴィンチの残した7,200枚の自筆ノートを基にその生涯を記した大著です。その生涯をむしろ冷静な筆致で記しており、評伝というよりは報告書のような印象を受けました。本書をダ・ヴィンチの評伝ととらえて始めて読む人はその天才性を実感し、感動するかもしれませんが、私自身はこれまで何回も関連の書籍を読んだことがあるので、本書の内容の多くの部分は既知です。ガリレオ・ガリレイ以降科学が発展して現在に至りますが、ダ・ヴィンチはそれ以前の人間なので科学者としての業績はあまりにも古く興味がわきませんでした。本書全般にわたり業績の詳細が記されていますが、平板な記述が長々と続き冗長です。ただし多くの美しい図が収録されています。

興味深く読んだのは下巻末尾の第33章「ダ・ヴィンチとは何者だったのか」にあるダ・ヴィンチの20の行動形態をまとめた部分です。それらは科学の研究をする際に当然とるべき行動なのですが、それらの中に印象的なものがありました。それは「細部から始める」、「脱線する」、「先延ばしする」、「『完璧は善の敵』で結構」、「タコツボ化を避ける」、「謎のまま受け入れる」です。一つのことを論理的にまっすぐ考えるのではなく、時には立ち止まり、脱線し、一見関係のないことを考えると、本来考えるべきことに対する答えがみつかる、といったことでしょうか。効率の悪い進め方のように見えますが、これが研究を進めるうえで意外と有効。また多くの分野で成果を上げるコツ。「万能」の天才といわれたのはこのようなユニークな行動形態をとったからともいえそうです。

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