オフシェル光子としてのドレスト光子の物理的描像を描くにはこれまで未解決の問題を解く必要がある。すなわち:
(1)光と電子正孔対を量子化してそれらの生成、消滅演算子を定義する必要がある。しかし従来の光の量子論では光の波長に比べずっと大きな寸 法の自由空間を伝搬する光を扱い、その電磁場を量子化することによりオンシェル光子の概念を確立してきた [1]。すなわちオンシェル光子は量子 化のために自由空間に定義された共振器中の電磁場のモードに相当する。しかしオフシェル光子の場合、波長より小さなナノ空間ではこの共振器が定義できず、従って光エネルギーのハミルトニアンを書き下すことができない。さらに、この空間の寸法は光の波長以下なので光の波長(波数)と光子の運動量が大きな不確定性をもつ。
(2)オフシェル光子はナノ物質表面に誘起された分極の間の相互作用を媒介する仮想光子なので、この光子を検出するにはこれを実光子に変換しなくてはならない。そのためにはもう一つのナノ物質を近接して置き、両者間の光子の多重散乱を通じて仮想光子を実光子に変換し、発生した散乱光を遠方で検出する。ここで第一、第二のナノ物質は各々仮想光子の発生源、検出器とみなすことができるが、従来の光学現象とは異なり、この発生源と検出器は互いに独立ではなく、仮想光子を通じて結合している。
(3)実際のナノ物質は巨視的物質の表面に固定されたり、巨視的物質の中に埋め込まれている。さらに照射光、散乱光といった巨視的な電磁場に囲まれている。従って上記の第一、第二のナノ物質間の相互作用を解析し両者間のエネルギーの移動と散逸の量を推定するには巨視系の影響を考慮しなければならない。
文献
[1] J.J. Sakurai, Advanced Quantum Mechanics(Addison-Wesley, Reading, 1967) p.20-74.